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2019/09/09

医者いらず健康長寿処方箋

健康科学研究所所長・大阪市立大学医学部名誉教授 井上正康

 井上正康先生は、癌や生活習慣病を「活性酸素」やエネルギー代謝の観点と、地球や生命の歴史という大きな視野で研究されている国際的研究者です。現在、多くの府県師会主催の公開講座で講演され大好評を博しています。ぜひ貴師会でも!
 ご連絡は下記URLより。
健康科学研究所HP http://www.inouemasayasu.com/seminar/

 

「Y染色体のボトルネックと雄の絶滅」

 人類は約20万年前に誕生したが、それから今日までに約1万世代、文字が発明されてから約500世代、そして飛行機で空を飛びだしてから僅か5世代が経過したに過ぎない。ネアンデルタール人は約28,000年前に絶滅したが、人類史の楽屋裏では無数の仲間が絶滅していった。この絶滅現象には大きな雌雄差があり、男子の絶滅が顕著である。最近、大昔に世界中の男性が大量死していた理由が遺伝子解析で明らかにされた。今から約5,000~7,000年前にアフリカ、ヨーロッパ、およびアジア地域の男子の大半が死亡していた時代があり、当時の男女比は女性17人に対して男性1人と極端な差があった。この様に女性に対して男性が非常に少なくなる現象は“Y染色体のボトルネック”と呼ばれている。ヒトの細胞は核とミトコンドリアに固有の遺伝子を有し、前者は23対の染色体を形成し、23番目の性染色体の組み合わせで性(女性XX、男性XY)が決まる。子どもは両親から1組みの性染色体を継承するが、Y染色体は男性からのみ受け取る。一方、ミトコンドリア遺伝子は母親の卵子からのみ受け継ぎ、精子のミトコンドリア遺伝子は受精直後に分解排除される。この際に致死的な突然変異がなければY染色体は祖父から父、父から息子へと受け継がれ、ミトコンドリア遺伝子は祖母、母、娘を介して子孫の男女へと母系遺伝される。この為、男女の遺伝的遍歴はミトコンドリア遺伝子から、男子の継承歴はY染色体の遺伝子から遡って解析することができる。
 男性が大量死すると彼等のY染色体はそれ以後継承されないのでY染色体のボトルネック現象が生じる。“遺伝子のボトルネック現象”は劇的な気候変動や生態学的変化などにより生じうるが、この様な環境要因の変化の場合には男女比に極端な差は生じない。Y染色体のボトルネックが生じた時代の男女比は約17:1と極端な比率になっており、その理由は気候変動などでは説明できない。Y染色体の突然変異、種族間の戦争、自然死など、約18通りの仮説に基づきシミュレーションした結果、「戦争により負けた側の男性が大量虐殺された可能性」が最も有力であることが判明した。敗者側の男性が大量虐殺されれば、その人数分のY染色体が瞬時に消失し、その直後にY染色体のボトルネック現象が現れる。一方、ミトコンドリアの遺伝子解析により、当時の女性にはボトルネック現象が生じていないことも判明している。人類史でもヨーロッパ人の植民地政策で侵略された地域では類似の現象が起こっている。侵略された植民地では男性の大半が虐殺されたり奴隷として使い捨てにされたが、女性は勝利者側の戦利品として生き延びることができた。Y染色体のボトルネック現象は戦争による男性の大量虐殺で生じていたのである。事実、現代の南米人のY染色体の大半は15世紀のスペイン人やポルトガル人に由来し、先住民族のY染色体を受け継いだ者は9%以下に過ぎない。
 アジアの127地域における男子住民5,321人のY染色体を解析した結果、現存するアジア人男性の約8億3,000万人(約40%)は11人の“偉大な父”の血脈を受け継いだ子孫であることが判明した。この“偉大な父”の筆頭が12~13世紀にかけてユーラシア大陸にモンゴル帝国を築きあげたチンギス・ハンである。彼は本妻の他に多くの妾を抱え、生涯で産ませた子供は百人を超えている。現在でも彼の直系の子孫が東は太平洋から西はカスピ海にまで広がっており、その総数は約1,600万人と言われている。彼に続く“偉大な父”は明朝後期の部族長ギオチャンガであり、現在でもその子孫は150万人以上いる。かの時代の支配者は圧倒的多数の女性と交わることができ、極東の島国である日本にも11人の“偉大な父”の血脈が受け継がれている。
 初期哺乳類では性染色体のゲノムサイズは同レベルであったが、人類では性染色体の遺伝子がXで1,098種、Yでは僅か78種である。Y染色体の遺伝子は百万年に数個の速度で減少しており、既にその13/14が失われてしまった。XXでは遺伝子変異を修復可能であるが、XYでは修復ができない事がY染色体消滅の主因である。Y染色体のSRY遺伝子は未分化な性腺を精巣に分化させて男性器を構築する。このSRY遺伝子こそが雄性の基盤であり、この遺伝子が他の染色体に転座したりY染色体が更に劣化すると、雄は用済みとなり雌のみで繁殖できる様になる。事実、奄美大島や徳之島のトゲネズミやモンゴルのウサギなどではY染色体が完全に消失し、雌のみで繁殖出来る様に進化している。動物は雌が基本形であり、雌だけで子孫を残せる様に進化してきた。爬虫類、鳥類、クマノミの様な魚類では雌雄はあるが単為生殖が可能である。雌雄が揃わなければ子供を残せない哺乳類はむしろ例外的であるが、全能性を有するiPS細胞はヒトでも子宮さえあれば男性抜きで子供を創れることを可能にした技術である。

転載:月刊東洋療法296号
公益社団法人全日本鍼灸マッサージ師会

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