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2019/04/27

医者いらず健康長寿処方箋

健康科学研究所所長・大阪市立大学医学部名誉教授 井上正康

 井上正康先生は、癌や生活習慣病を「活性酸素」やエネルギー代謝の観点と、地球や生命の歴史という大きな視野で研究されている国際的研究者です。現在、多くの府県師会主催の公開講座で講演され大好評を博しています。ぜひ貴師会でも!
 ご連絡は下記URLより。
健康科学研究所HP http://www.inouemasayasu.com/seminar/

「21世紀病の逆襲・・激増する自閉症」

 自閉症はコミュニケーション能力、社会性、日常行動などが障害される疾患であり、腸炎やアトピー症状を併発することが多い。自閉症の子どもでは特に胃腸障害が多く、慢性の下痢や便秘が健常児より3.5倍以上多い。自閉症が認知されてから僅か60年の間に患者が激増し、現在では世界で約7000万人が罹患していると言われている。第二次世界大戦頃には自閉症患者は1万人に一人程度であったが、1960年には2500人に一人、2000年には125人に一人、2010年には68人に一人となり、過去60年間で40倍も増加している。自閉症は女子よりも男子の方が罹りやすく、現在では全男児の2%以上が罹患している。この調子で増加し続ければ、2050年には家族内で一人は自閉症という非常事態になる。現在、自閉症の治療としては行動療法などが行われているが、その効果は低い。
 ところで、帝王切開で産まれた子供は自閉症のリスクが約7倍高いことが以前より知られている。又、妊婦がインフルエンザに罹ると生まれてくる子どもが自閉症になるリスクが約2倍高くなる事も知られていた。最近の研究により、自閉症の子供の腸内細菌叢は健常児のそれと著しく異なり、細菌の多様性や数が乏しく、腸粘膜組織が病原体に攻撃されやすくなっている事が示唆されている。妊娠マウスにウイルスのリボ核酸(RNA)を注射したところ、産れた仔マウスの腸粘膜のバリアー機能が低下して腸内細菌やその代謝産物が血中に入り易く、脳に影響して自閉症様の症状を呈する事が判明した。通常では便中に排泄されるべき代謝物が血中に取り込まれやすくなる病態はリーキーガット症候群と呼ばれている。腸内でビフィズス菌や乳酸菌などが優位であればリーキーガット症候群は起こりにくくなる。胃腸障害を軽減するバクテロイデス・フラジリスを自閉症モデルマウスに与えたところ、腸内フローラが正常化し、腸粘膜のバリアー機能や自閉症様行動も改善された。
 自閉症マウスの血中には腸内細菌が産生した4-エチルフェニル硫酸(EPS)と呼ばれる代謝産物が正常値の46倍も多く含まれていた。又、健康なマウスにEPSを投与すると不安行動が増加する。EPSに似た物質のp-クレジル硫酸は腸内細菌によりアミノ酸のチロシンから産生され、体内に取り込まれると心血管系や腎臓などを障害する細菌毒素である。バクテロイデス・フラジリスを腸内移植してリーキーガット症状が改善されたマウスでは血中のEPS濃度も著明に低下する。EPSが自閉症様の症状を誘起することや自閉症患者の血中でもEPSと似た代謝産物が高濃度に検出されてることから、本病態に腸内細菌が関与すると考えられている。
 自閉症患者に抗生物質を投与した後に経口的および経肛門的に腸内細菌を移植し、下痢、便秘、腹痛、消化機能や行動障害などが改善されるか否かが解析されている。腸内細菌を移植された自閉症児では、数ヶ月間に渡り消化不良、下痢、便秘、腹痛などが著明に改善され、行動障害も有意に軽減された。移植治療後は腸内細菌叢の多様性も改善し、ビフィドバクテリウム(ビフィズス菌)、プレボテラ属やデスルホビブリオ属の細菌の割合が増加していた。これらの事から、自閉症患者の消化器症状や行動障害が腸内細菌の異常に起因し、腸内細菌移植によりバランスを改善すると症状が軽減する可能性が示唆されている。今後、自閉症患者の新たな治療法として腸内細菌移植が有効な武器になると考えられる。
 バクテロイデス・フラジリスの腸内移植によりリーキーガット症状が改善されたが、彼らは長い間医療従事者から“悪玉菌”として敵視されてきた。これまで医学は腸内細菌を善玉菌、悪玉菌、日和見菌に分類して悪玉菌を目の敵にしてきた。しかし、これは科学としての医学の未熟性を示すものであり、夫々の腸内細菌には特異的な役割や存在意義があり、それらのバランスが健康に重要と考えるべきである。事実、ヒトは彼らの比率が約2:1:7程度の時に最も健康であり、“悪玉菌”も10%程度居なければ身体を正常に保てないのである。ヒトは長年に渡り喜怒哀楽を“腹の虫”のご機嫌で表現してきたが、その実態は腸内細菌のバランスや代謝状態であり、これが胃腸症状や心身の健康に大きく影響してきたのである。チンパンジーと遺伝子的に1.6%しか差がない現代人は、20世紀後半の過剰な清潔感や抗生物質の乱用を改め、文明を適度に享受しながら野性を取り戻す事が必要である。 

転載:月刊東洋療法292号

公益社団法人全日本鍼灸マッサージ師会

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