2024/10/01

《令和6年度 夏期大学講座2日目》

令和6年9月8日(日)午前の部では『アスリートのコンディショニングに東洋医学を活かす』の演題で明治国際医療大学鍼灸学部 谷口剛志先生にご講演いただいた。

アスリートのコンディショニングで『治未病』の概念を活用して精神面・肉体面・健康面をアプローチするのは、斬新的で大変良かったと思います。

アスリートのコンディショニングを主観的な指標(VAS)と客観的な指標(唾液コルチゾール濃度)で捉えて、その上で募穴診を行い、圧痛を指標にコンディショニングの変動を捉えることができるのかを検証したのは目新しい情報です。スポーツ鍼灸の発展を願います。

 

午後の部では『冷え性の診断と治療』の演題で関西医療大学保健医療学部はり灸・スポーツトレーナー学科 坂口俊二先生にご講演いただいた。

臨床の場面では、冷え性の主訴よりは愁訴で来院されると思います。患者の満足度向上に以下のセルフケアがヒントになります。

今回、教えて頂いた冷え性の対策でセルフケアとしては、湯たんぽを大腿部に置いて作業をすると足が冷え難い坐業でない場合、使え捨てカイロ固定用のホルダーを活用して、後頚部や肘部に当てると手の冷えの程度が軽減する。

就寝前の足三里、三陰交、湧泉への間接灸を続けると良い。

【報告者 神戸地区:伊藤傑】

2024/08/01

《令和6年度 夏期大学講座1日目》

令和6年7月14日(日) 10時30分より令和6年度夏期大学講座1日目が開催された。午前の部は【お灸堂】院長 鋤柄誉啓 先生をお招きし「灸治療院の診療及び活動のご紹介」との演題でご講演いただいた。

 鋤柄先生が普段行っておられる施術のご紹介とともに患者といかに寄り添っていくかということについての工夫がよく伝わってくる講演だった。講演の中で私が印象的に感じたこととして、鋤柄先生が施術のことを「お手当」と表現されていた点と施灸による身体変化をきちんと患者と共有していた点である。医療の原点は症状に対して手を当てることから始まったと言われており、まさに、それを実践されているということだろう。また、昨今は慢性症の患者が増加しており、症状寛解にすぐに至らないケースが多いが、身体の変化をきちんと認識し、それを積み重ねていくことで身体の状態が改善していくことを丁寧に伝えておられるとのこと。患者目線で施術者が歩み寄り、患者に寄り添う施術を継続して実践されている。このようなことは施術者としてのキャリアが長くなると希薄になっているのではないだろうか。施術者としてのスタンスを再考するいい機会になったと思う。

午後の講演は【京都四条からすま鍼灸院】中島美和 先生をお招きして、「頚肩上肢症状に対する鍼治療」との演題による講演と実技供覧だった。

鍼灸施術は様々な技法、手法があり、選択肢が多いという点では強みになる一方、それらは先人の経験に基づく伝道であり、体系化されておらず、鍼灸施術の受療率が上昇しにくい要因となっている。今後はさらに基礎研究がなされ、EBMに基づく医療技術であることがもっと発信されるべきと中島先生は述べておられた。

 上記を踏まえ、頸肩上肢症状の発症要因として最も多い、頸椎の退行変性を基盤とする運動器障害について、症候、疾患の成り立ち、さらには治療法を理解する上で必須となる、頸椎の機能・解剖、診察技法等についての講義が行われた。特に神経分布については詳しく解説していただき、神経へのアプローチでは、どの部位に鍼をどの方向に、どの程度の深度で刺入すれば効果が期待でき、また安全に刺鍼できるか等、非常に詳しく講義していただいた。多くの受講者が養成施設を卒業して長い時間が経過しており、また養成施設での解剖学の講義よりも詳しく、脳に汗をかいた方も多かったのではないだろうか。知識の再認識と学び続けることの重要性を再確認するよい機会となった。

 また、実技供覧においてはモデル患者に対し、講義でお話いただいた刺鍼部位に実際に刺鍼し、鍼の刺入方向や深度が確認できた。今回は時間の制約もあり、視力の弱い方には触知して確認する等は難しかったが、詳しく説明をしていただきながらの実技供覧でイメージはできたのではないだろうか。

 私的には解剖学の知識は有害事象を招かないためや、他の医療業種従事者との情報共有において共通用語を理解、使用することは不可欠と考えるが、本来の東洋医学の強みを活かすためには、現代医学の知識に経絡経穴や東洋医学の臓器感などが融合できてこそ本来の力を発揮できるのではないだろうか。今後の研究に期待したい。

【報告者:神戸地区 井上和哉】

2024/07/01

《令和6年度 神戸地区講習会》

令和6年6月16日(日) 13時30分より德岡里実 先生をお迎えして「【さとう式リンパケア】入門~「触れる」ことの深さを知る~」との演題で講義と実技指導を行っていただきました。德岡先生の雰囲気と柔らかい話し方や声のトーンから終始和やかな講習会となりました。

 【さとう式リンパケア】は歯科医師である佐藤先生が顎関節症の治療の一環として行っていた咬筋スパズムに対するマッサージが起源だそうですが、接触する指の圧力を少なくした方が治療効果が高いことを発見されたそうです。触れる圧力を少なくすることで、末梢の微小循環血液量が改善され、脈管外の間質液の循環が改善されることで、筋ポンプ機能などが改善され、筋緊張が解消されていきます。間質液は神経伝達などにも関与しており、神経系の調整にもなります。

 また、適度な触覚刺激はオキシトシンやセロトニンといった脳から分泌される物質の分泌を促すことも知られており、これらは「幸せホルモン」とも言われ、肉体的な不調を整えるだけでなく、人そのものを豊かにしてくれるメソッドということになります。

 また、【さとう式リンパケア】では口腔、胸腔、腹腔の三つの腔を重視しており、腔を立てるよう調整をしていくそうです。上述の筋緊張を取ることは姿勢を整えることになり、正しい姿勢を取ることで三つの腔が正常な形となり不良姿勢の解消はもとより身体が緩むことで血流やリンパ還流や神経伝達などがスムーズになり本来の状態になっていくということでした。

 実技のデモンストレーションにおいてはモデル患者の状態把握から施術を施した後とのビフォーアフターで状態変化がモデル患者にも体感できたようでした。また、少数グループでの実技練習においては先生にグループを巡回していただいて、多くの受講者が先生の施術を体験し、その触覚刺激量の少なさに驚嘆していました。

 【さとう式リンパケア】については佐藤先生のyoutubeチャンネルにも多くの動画が掲載されていますが、この刺激量の感覚は動画ではなかなか理解できないと思いますし、また、大人数でデモンストレーションを見るだけでなく、実際に体感することの重要性を再認識した講習会となりました。今回、受講された方には是非、日々の臨床において本講習内容を活かしていただければ幸甚です。

【報告者:神戸地区 井上和哉】

2024/05/02

《神戸地区講習会 第2弾》

開催日時:令和6年3月3日(日) 13:30~16:30

会場:神戸市中央区文化センター11階 会議室1001号室

講師:学校法人 呉竹学園 臨床教育センターManager 船水隆広 先生

講題:「メンタルヘルスや美容に安全で効果的な鍉鍼テクニック【TST】の理論と実技」


 去る令和6年3月3日13時30分より神戸市中央区文化センターにて学校法人 呉竹学園臨床教育センターマネージャー 船水隆広 先生をお招きして「メンタルヘルスや美容に安全で効果的な鍉鍼テクニック【TST】の理論と実技」との講題で講義と実技供覧を行っていただきました。

 講義の冒頭に船水先生が関わっておられる様々な活動のご紹介があり、教育現場だけでなく、海外も含めてご活躍されていることに感心させられました。その中で、鍉鍼を使用されるようになった経緯のお話がありました。船水先生はうつ病やパニック障害などメンタルヘルスにご興味がありそういった患者も多く施術されていたそうです。メンタルを患っている方は皮膚が過敏になっている方も多く、刺入するタイプの鍼は手技としてはソフト刺激であったとしても受け入れてもらえないことが多く、であればと鍉鍼を使用されるようになったということでした。さらに、現在流通している鍉鍼は先端が細く、皮膚への刺激が強いこともあり、オリジナルの鍉鍼を作成するに至ったと。また、鍉鍼のみで施術が完結するような施術を行っているような文献もなかったことからオリジナルの手技を構築するに至ったとのことでした。

 メンタルを患っている方の治療の一環として顔の血色をよくしたり、表情を作るために口角を上げやすくする目的などで顔面へのアプローチを行うことで患者の状態が一段階改善することにもなり、同時に美容的なアプローチの理論構築にも繋がっていったとのことでした。

 船水先生は人体解剖も数多くされており、顔面についてはたくさんの筋肉がついているが、筋層はとても薄く、血流が悪くなると状態がすぐに悪くなるため、気血の流れを改善し、顔面の血流を改善し、筋や皮膚の状態を改善していくとのことでした。

 船水先生が考案された鍉鍼についてもご紹介いただきました。主に使用される鍉鍼はソフトな形に加工された鍼先と反対側には球状になっており、鍼体には溝が切ってあります。気を流して治療していくと説明をすると気がわからないという施術者が必ずいて、そういった方でも気を流すことができるようにするために溝が切ってあるそうです。船水先生は「気は固有振動数」という考えをお持ちで、鍼体の溝を指を滑らすことで振動が発生し、気が分からなくても気を流せるということだそうです。気は生命体の持つ波動の一種だと私は考えているのですが、固有振動数という考えは共感や新鮮さを感じました。

 後半の実技供覧ではモデル患者に対し、船水先生がされている基本的な手順と、それぞれの部位に、どのような手技を施していくのかということを詳しく説明していただきました。患者の状態によって施術部位や刺激量など変化はすると思いますが、基本的には胸腹部、四肢、背腰部、頭頸部、顔面とまさに全身治療でした。

 非常に内容の濃いご講演で消化不良になっている方も少なくないと思いますが、鍉鍼ならではの手技や鍉鍼だからこそ行いやすい部位など日々の臨床にプラスしていただければ幸いです。

 今回も会場とオンラインのハイブリッド方式での講習会開催といたしました。会場準備、撮影等、ご協力いただいた先生方に感謝申し上げます。

【報告者:神戸地区 井上和哉】

2024/04/02

《神戸ブロック臨床研修会》

 令和6年2月23日(金)神戸市立総合福祉センターにおいて、高齢化社会における伝承医学の役割「不老長生と道教思想」をテーマに、ベーネ御影治療院院長 呉光崑(ごう みつる)先生にご講演いただいた。

 今回のテーマ「不老長生と道教思想」は鍼灸を学ぶ以前から関心があったので楽しみにして参加しました。そして期待にたがわず有益な研修会になりました。 講師の呉光崑先生は御本人が言うように「胃の氣」が充実したエネルギッシュな方で、迫力のある波動が伝わりグイグイと惹きつけられ3時間の研修会もあっという間でした。

 前半は講義で「不老」と「長生」のそれぞれの意味を中国伝承医学の観点からわかりやすく解説され、後半は人迎気口脈や九道の脈を切り口に経筋治療の説明、さらには呉先生が普段行われている鍼治療の一部を見せていただきました。

 講義も実技もそれぞれ素晴らしく学ぶところも多かったのですが、最も印象に残りかつ呉先生の訴えたかったことと推察されるのは、資料にあった「傷寒論」の序文の精神だと思いました。「医術の研究に心をそそがず、自らの身を養生しない」、当時から現代に至るまで軽佻浮薄な風潮に対して「医」に関わる者として肝に銘じておきたいことだと思います。そのために「古典」に立ち返り学ぶことの大切さも感じています。

 今回も内容の濃いとても充実した研修会でした。講師の呉先生、そして毎回充実した研修会を企画運営して下さるスタッフの皆様、ありがとうございました。

【報告者:一般 脇岡望文】

2024/03/02

《世界遺産姫路城マラソン2024》

姫路城マラソン2024 マッサージボランティアに参加して

 令和6年2月11日に世界遺産姫路城マラソン2024が開催されました。今回から鍼灸マッサージ師会によるマッサージボランティアが再開されたので初めて参加させていただくことになりました。コロナ禍のため久しぶりの機会となったようです。

 集合場所から現地に移動して、まずは会場のセッティングから。皆さん手慣れた様子で作業されていました。まだランナーが帰ってくるまで時間があるので、私を含めて初参加のメンバーはマッサージ手順のおさらいをしてもらい準備を整えます。

 マッサージ会場が地下駐車場のため外の様子は分かりませんが、昼近くに走り終えたランナーが戻ってくるようになりいよいよマッサージ開始。時間と手順を意識して確実に施術していきます。ランナーは各地から来られていて色々なお話を伺う事も出来ました。最初はまばらでしたが、時間が経つにつれて待合スペースがいっぱいになる位に多くの方に来て頂きました。慣れてくると他の方の施術の様子も見られるようになり、各先生方は基本の手順を踏襲しつつも体の状態に応じてアレンジされており勉強にもなりました。また、今回から鍼も受けられるベッドを設定していたのですが、大変人気となっており鍼需要の高まりを実感しました。

 過去の例として足がつる等の事例は聞いていましたが、気温や天候に恵まれたためか特に問題はなく終了。撤収作業を終え6時間ぶりに地上に戻った時には心地よい充実感がありました。また今後も機会があれば参加したいと思います。

【報告者:姫路地区  田中尚人】

 

2023/12/28

《神戸地区講習会 第1弾》

  開催日時:令和5年12月10日(日) 13:30~16:30

  開催場所:あすてっぷKOBE セミナー室3 および オンライン(Zoom)

  講師:寺子屋お産塾 代表 一橋アシラム院長 田中寿雄 先生

  講題:~妊娠・妊娠ライフ・お産・子育て~妊娠ライフと鍼灸医療

 

 令和5年12月10日(日) 13:30より寺子屋お産塾 代表、一橋アシラム院長 田中寿雄 先生をお招きして「~妊娠・妊娠ライフ・お産・子育て~妊娠ライフと鍼灸医療」との演題で田中先生の長期に渡る臨床経験の中でも妊娠、出産、母乳育児について田中先生の奥様や娘さんやお孫さんのエピソードを交えてお話をいただきました。特に母乳育児における「母乳の質改善」については長期に渡り取り組んでおられ、その「母乳の質」が改善されたことは「赤ちゃんが教えてくれる」と。赤ちゃんは顔色を伺ったり気を使ったりで母乳の飲み方を変えたりはしないため母乳の飲み方で「母乳の質」が改善されたことを証明してくれるとのこと。そして、故 入江正先生に師事され奇経を使用した治療の実技供覧を複数の方に施していただきました。「母乳の質改善」には奇経八脉の中でも任脉、督脉、陰蹻脉、陽蹻脉が特に関係するとのお話でした。長期に渡り、一つのテーマについて何度も何度も繰り返し取り組まれたことで現在のような完成形の治療スタイルに到達できたのだと思います。田中先生のような治療の取り組み方や思考はとても重要なことだと改めて感じることができました。

 後半は田中先生のお弟子さんであるさいとうはり灸院の斉藤 裕美 先生にご登壇いただき、ご自身の臨床経験から鍼灸院、鍼灸師に欠けていることについてお話いただきました。斎藤先生はおっしゃいました「治療は回数が多い方がいい、長期間する方がいい」と。一般的に治療は短期間、少ない回数を求められることが多いですが、実際には治癒していくには時間がかかりますし、根本的な部分まで治療できていないと再発するケースが大半で、それでは治療とは言えないのではないかとのこと。そして、治療を継続するために鍼灸院や鍼灸師に欠けているものは「ゴール設定」ができていないことだと。つまり、患者さんも施術者も実感できる指標をしっかり設定し、その指標が改善したことを以て評価をするということでした。斎藤先生が専門とされているアトピー性皮膚炎の治療においては具体的には顎関節症の有無や腹部の血管拍動や脊柱の状態などを指標にされているそうです。あと、もう一つ重要なことは、睡眠状態が大切だとおっしゃっておられました。皆さんも臨床現場で患者さんの睡眠状態について問診をされているとは思いますが、少し深掘りして問診していただくといいかもしれません。

 田中先生の長期間に渡る膨大な数稽古から得られた技術や心構え、斎藤先生の患者さんとの向き合い方や治療に対する考え方はいずれも非常に大切なことだと改めて実感することができたご講演でした。こういう症状にはこのような治療というような小手先の技術ではなく、本質的な部分に焦点を合わせることは本当に大切なことだと思いました。

【報告者:神戸地区 井上和哉】

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