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2019/08/25

《夏期大学講座・学術講演会》

 猛暑の中、メインテーマ「高齢社会に対する鍼灸マッサージ師の役割」を掲げ、著明な6人の講師を迎えて3日間にわたって開催された。

第1日目7月21日(日)明石市生涯学習センターにて、午前は藤田賢吾先生に「認知症の最新医療」について、午後は宮本俊和先生に「変形性膝関節症に対する鍼灸マッサージ」について、ご講演をいただいた。

◆第1日目の感想:西神戸地区会員 木村慎一◆

 午前の講演について:まず冒頭に、従来の学会名「神経内科」は精神科と混同されやすいので、藤田先生は開業にあたって「脳神経内科」としていたところ、後に学会名も「脳神経内科」へと変わったとのこと。

 認知症を来す疾患は数多くある中、アルツハイマー病とパーキンソン病についての内容で、推計80歳以上の3人に1人が認知症と言われているそうです。認知症と物忘れには大きな違いがあり、例えば昨日食べた朝ごはんのメニューを思い出せないのは「物忘れ」、食べたこと自体を忘れているのが「認知症」と判断されます。認知症にもいろいろありますが、ほとんどがアルツハイマー型認知症に分類され、記憶障害・見当識障害・空間認知障害・実行機能障害・失語失認失行などの中核症状と、妄想・幻覚・暴言・不安抑うつ・無関心・介護拒否などのBPSD(行動・心理症状)と呼ばれるものがある。

 認知症の方に接するときの注意点は、喜怒哀楽の感情が研ぎ澄まされているので「自尊心を傷つけない」「ゆっくり傾聴する」など。治療には、食生活の見直し・コミュニケーション・運動などの非薬物療法や脳活性薬・神経修復薬・貼付薬・漢方薬を組み合わせながらの薬物療法がある。

 パーキンソン病に認知症が合併したものがレビー小体型認知症と言われ、まずは幻視から発症し、呼びかけに対する反応が乏しい、パーキンソン症状による筋拘縮で動作が緩慢などの症状がみられ、進行が早いため早期対応が望まれる。

 当院への来院患者の中にも家族に認知症の方がおられ、記憶障害があってもそれ以外は普通である、日によって症状が出ている時と出ていない時の差が激しい、本人は発症していることに気付いていない等々、接し方に大変苦労されているようです。渡辺謙主演の「明日への記憶」という映画が、認知症の方について非常によく演じられていると藤田先生が推奨されていたので、是非鑑賞して今後に活かしていきたいと思います。

 午後の講演について:現在70歳代の体力水準が上がっており、最も活発な世代としてスポーツへの参加が増加している。これらの高齢者の中には、変形性膝関節症や膝痛を抱えたままスポーツを続けている方も少なくない。しかし、鍼灸マッサージを受療されている方は少ない。一方、厚労省は「新健康フロンティア戦略」において介護予防推進の観点から腰痛膝痛などの運動器疾患対策の必要性を示し、治療目標として高齢者に負担の少ない低侵襲な治療法と重症化を予防するための方策を確立する。まさに我々鍼灸マッサージ師が得意とするところである。

 膝関節は静的安定性と動的安定性で保たれている。立位状態では大腿四頭筋やハムストリングスなどの筋はほとんど活動せず、大腿骨と脛骨とその隙間を埋める半月板の接触面の適合と靭帯により静的安定性が保たれている。しかし、しゃがみ込みや階段昇降時では大腿骨と脛骨との接触面が少なくなり、大腿四頭筋などによる筋収縮により動的安定性が保たれる。実際に自分で大腿の筋肉に触れながら、立ったりしゃがみ込んだりするとよくわかった。

 膝痛というものの、実際は膝周囲に付着している筋や腱に痛みがあることがほとんどである。治療としては疼痛の軽減、機能の改善やADL向上を目的とした視点が重要であり、大腿四頭筋やハムストリングスの筋緊張緩和や圧痛部への鍼灸マッサージ治療が有効である。あわせて患者自身に運動療法を継続してもらうことも必要である。昨年同様、とてもわかりやすくひとりひとり丁寧に指導していただき、明日からすぐ臨床に活かせる基本に忠実な内容だった。

  

 

第2日目8月4日(日)明石市生涯学習センターにて、午前は大西尚先生に「最新の肺がん診療」について、午後は江川雅人先生に「高齢者の生活習慣病に対する鍼灸治療」について、ご講演をいただいた。

◆第2日目の感想:姫路地区会員 天野豊◆

 午前の講演について:ご存知の通り、我が国においての死亡原因の第1位は40年近く「癌」であります。2017年の統計では、男女合わせて肺癌が最も多く、5年生存率が低い癌の一つだそうです。50年ほど前までは外科手術以外の有効な治療法は無かったが、40年ほど前に当時では画期的な薬剤が開発され、抗がん剤治療により若干ではあるが延命効果がみられるようになったとの事。しかし、吐き気や白血球減少、血小板減少などの副作用が強かったため、抗がん剤治療を安全に行うことが簡単ではなく、その後、副作用の少ない作用機序の異なる薬剤が開発され、白金製剤と新規薬剤の併用治療が行われるようになり、更に吐き気や白血球減少を軽減するための薬剤が開発され、安全に苦痛を和らげ治療を行えるようになった。

 難しい名前の新規薬剤が次から次へ生み出され、分子標的治療や免疫チェックポイント阻害薬等々、何れも全ての癌に有効と言うわけでは無く、治療に至る前段階で癌の診断、外科的手術、放射線治療の適応を検討するための病期診断が重要だと言う。

 軽いステージ1や2は外科的手術を行ない、重い病態には患者の体力を考慮して手術か薬剤かその両方かの判断、また治癒を目指すのか延命を行なうのかの判断もしなくてはいけない。

 私の周りを見てみると、母方の祖母は大腸癌から肝臓→肺…と、気が付いた時には全身に転移しており、手術したのは人工肛門(ストマ)だけで、あとは抗ガン剤治療、それでも癌とわかってから約3年生きることが出来ました。また知人では、胃癌で胃の4分の3を摘出し、それから10年が経ち前立腺癌を発症し、治療中に今度は膀胱癌が見つかり現在内科的治療を行なっているところです。

 現在では癌はポピュラーな病気で、発見が遅れると深刻な状態になりますが、早期発見・早期治療で治癒できるようになってきました。私も今年に入って「ガン保険」に加入しました。「備えあれば患い(うれい)なし」と言いますが、元気で楽しく長生きしたいものですね。

 午後の講演について:慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、昨年も夏期大学で勉強しましたが、肺気腫や慢性気管支炎と呼ばれてきた呼吸器疾患の総称で、その多くは喫煙による生活習慣病と言えます。

 鍼灸治療では、その多様な症状を緩和すべく、呼吸筋の緊張緩和、冷えや食欲不振の解消を目的とした治療を行なえば、呼吸困難の軽減や歩行距離の延長が見られ、QOLの向上を図る事が出来るとの事です。

 認知症については、高血圧・高脂血症・糖尿病などの生活習慣病が発症の要因と考えられており、その管理を有効な鍼灸治療を行なう事で発症予防や進行の抑制に繋がる事が期待できると、症例をあげて説明してくださいました。

 中医学的には、脳の機能は肝・心・腎の病と考えられており、3つに分類し治療を行なっているそうです。具体的には「三焦鍼法」を用いるとの事(詳細は兵鍼講座の第42号をご覧ください)。

 また、健康な状態と要支援・要介護状態との中間期にある「フレイル」についても、鍼灸を用いて健康な状態へ戻す事が期待できると考え、サルコペニアの指標:筋力(利き手の握力)、歩行能力(3m-TUGT)、バランス能力(FRT)と低栄養の指標:舌圧値を測定してフレイルに対する鍼灸治療の影響について検討したところ、フレイル状態は治療後の変化に影響は無かったが、サルコペニアの指標については向上が見られ、この治療が有効な治療法であると証明されたとの事です。

 私は機能訓練指導員として7年間「機能訓練特化型デイサービス」に努めております。現場で鍼灸治療は出来ませんが、ツボ押しや運動法、マッサージで運動機能の維持・向上を図り、認知予防のアドバイス等を行なってきました。80歳を過ぎてきますと、なかなかADLの向上には至りませんが、長い人(92歳・女性)では5年経っても運動機能は衰えておりません。また、認知症の方も数人いらっしゃいますが症状は安定しています。

我々の持つ知識や技術は、多くの方に喜んでいただける素晴らしいものです。一人でも多くの会員に学術講演会(夏期大学講座)を受講していただき、新しい知識や技術を身に付け、臨床に生かしていただきたいと思います。

 

第3日目8月25日(日)兵庫県民会館にて、午前は山下智也先生に「腸内フローラpart2~健康・疾患と腸内細菌との関係~」について、午後は矢野忠先生に「排尿障害に対する鍼灸マッサージ」について、ご講演をいただいた。

◆第3日目の感想:西宮地区会員 杉輝章◆

 午前の講演について:腸は第2の脳といわれるほど、多くの情報を持ちそれをもとに各臓器に指令を送っていると言われるようになった。しかもその働きには腸内に棲む細菌が関与している。人間の腸の中には数百種類、数にして100兆個程度の細菌が棲んでいる。我々は彼らの存在に特に気がつかないまま彼らに助けられ、また時には彼らに攻撃されながら生きている。最近では多くの研究者がこの腸内細菌(腸内フローラ)に着目し研究するようになった。腸内フローラが影響するものとしては、大腸炎のように直接的に関与するものだけでなく、肥満やアレルギーまた糖尿病やガンといった疾患にもおよんでいる。

 そこで山下先生は動脈硬化性疾患と腸内細菌との関係に着目し、バクテロイデスと言われる細菌が多い人は冠動脈疾患を起こしにくい傾向があるということを突き止め、これを世界で初めて報告した。

 山下先生は県内のご出身で、以前から鍼灸マッサージ師会のこともよくご理解いただいているとのことで、私たちにも理解しやすい言葉を使ってわかりやすくご説明いただいた。

 東洋医学でも心と小腸は表裏関係にあり、お互いに影響しあっているとされている。昔の人は腸内にどんな細菌が棲んでいるのかを知らなかったにもかかわらず、腸が心臓をはじめ他の多くの臓器に関係していることに気づいていたわけで、最近の研究もスゴイけど昔の人もスゴイと改めて思いながら拝聴した。

 午後の講演について:排尿障害の症状としては、頻尿・尿意切迫・尿失禁・排尿困難などがあり、いずれも患者のQOLを大きく低下させる。尿失禁には切迫性尿失禁・溢流性尿失禁・腹圧性尿失禁・反射性尿失禁などがある。

 その治療に関しては、急性の場合は医療を先行させることが適切であるが、慢性化したものには鍼灸マッサージが適応する場合がある。例えば、尿失禁の患者で腎陽虚が考えられる場合には、然(ねん)谷(こく)を用いて腎気を高めたり、太渓(たいけい)や中(ちゅう)極(きょく)・関元(かんげん)・復溜(ふくりゅう)・腎兪(じんゆ)を用いて腎気を補うと良い。

 矢野先生は若い頃、尿意切迫の強い排尿困難の方を担当し、鍼治療でその症状が改善したためとても感謝された経験があるとのこと。今まで多くの患者を治療した中でも印象に残る経験だったそうだ。また最近の話題としては、尿意切迫・頻尿を訴える女性患者を対象に行われた臨床試験で、三陰交(さんいんこう)での鍼治療が有効であったこと、また夜間頻尿の患者さんには会陰部へのローラー刺激が有効であることがテレビで紹介されて話題になったことなどを紹介いただいた。

 高齢になると何らかの排尿困難に悩む人が多い。きっと私が担当する患者にもいると思うが普段はなかなか恥ずかしくて口に出せずにいるだけかもしれない。今後もし相談を受けた時には適切な対応や治療ができるようしっかりと勉強しておかなければならないと感じた。

【広報部長 木村慎一:報】

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